2017年1月16日月曜日

NSASBC02試験〜リンパ節転移陽性乳癌に対するタキサン系抗癌剤単剤治療の有効性〜

Watanabe T, Kuranami M, Inoue K, et al. Comparison of an AC-taxane versus AC-free regimen and paclitaxel versus docetaxel in patients with lymph node-positive breast cancer: Final results of the National Surgical Adjuvant Study of Breast Cancer 02 trial, a randomized comparative phase 3 study. Cancer. 2017 Jan 12.

PMID: 28081304

【背景】
現在,乳癌術後の患者において,アントラサイクリン系抗癌剤+シクロフォスファミド(AC療法)に続きタキサン系抗癌剤投与を行うのが標準治療となっている.
本研究では,筆者らはAC療法を安全に回避出来るか研究し,またパクリタキセルとドセタキセルの効果を比較した.

【方法】
この第III相非盲検ランダム化比較試験は日本国内の84施設で行われ,腋窩リンパ節転移陽性乳癌の術後女性患者が対象となった.
患者は以下の4群に分けられた.
・AC療法→パクリタキセル(175 mg/m^2)4コース(ACpT療法)
・AC療法→ドセタキセル(75 mg/m^2)4コース(ACdT療法)
・パクリタキセル8コース(PTx)
・ドセタキセル8コース(DTx)
※AC療法:ドキソルビシン(60 mg/m^2)+シクロフォスファミド(175 mg/m^2)4コース
主要評価項目は無病生存期間とした.
副次評価項目は全生存期間,有害事象とした.
筆者らは上記の4群を比較するため,2×2要因デザインを採用した.


【結果】
1060例の患者のうち,1049例がITT解析の対象となった.
無病生存期間についてはAC含有療法群とAC非含有療法群の間に非劣性を証明しなかった(HR, 1.19; 95% CI, 0.982-1.448 [P= .30]).
ドセタキセル含有療法群はパクリタキセル含有療法群に対して有意に無病生存期間(HR, 0.72; 95% CI, 0.589-0.875 [P = .0008])と全生存期間を延長した(HR, 0.75; 95% CI, 0.574-0.980 [P = .035]).
AC含有療法群では好中球減少,嘔気,嘔吐がより多く見られ,ドセタキセル含有療法群では浮腫がより多く見られた.

【結論】
AC含有療法群とAC非含有療法群の間において,無病生存期間の非劣性は証明されなかった.
また,同様のレジメンにおいて,ドセタキセルはパクリタキセルに比較して無病生存期間を延長させた.

2017年1月15日日曜日

糖尿病,血糖値異常,脂質異常症,高血圧と炎症性乳癌およびその他の乳癌のリスク

Diabetes, Abnormal Glucose, Dyslipidemia, Hypertension and Risk of Inflammatory and Other Breast Cancer.

PMID: 28087608

【背景】
肥満はその他の乳癌と比べて有意に炎症性乳癌のリスクが高い.
そこで,我々は肥満の合併症(糖尿病,血糖値異常,脂質異常症,高血圧)が炎症性乳癌とその他の乳癌のリスクに関わっているか,診断時のステージごとに調べた.
【方法】
1992年から2011年までに登録されたSEERメディケアデータベースの66歳以上の女性乳癌患者を対象とした.
まず,炎症性乳癌(N=2,306),局所進行非炎症性乳癌(N=10,347),その他(N=197,276)に分類した.
また,コントロールとして層化5%ランダム抽出法を用いて200,000人の非乳癌女性メディケア受給者を抽出した.
メディケア個票データを用いて,診断および抽出の12ヶ月前の曝露を調べた.
オッズ比と99.9%信頼区間を条件なしロジスティック回帰分析を用いて検討下.

【結果】
糖尿病は遠隔転移炎症性乳癌(OR 1.44; 99.9% CI 1.21-1.71),遠隔転移(OR 1.24; 99.9% CI 1.09-1.40)および領域性(OR 1.29 (99.9% CI 1.14-1.45)の局所進行非炎症性乳癌,遠隔転移(OR 1.23; 99.9% CI 1.10-1.39)およびステージ分類されていない(OR 1.32; 99.9% CI 1.18-1.47)非炎症性乳癌のリスクを高めた.
脂質異常症は炎症性乳癌(OR 0.80; 95% CI 0.67-0.94)と,限局性を除く非炎症性乳癌のリスクを下げた.
腫瘍のエストロゲン受容体発現度合によって結果は変わらなかった.
血糖値異常と高血圧はあらゆる乳癌のリスクを僅かに高めた.

【結論】
遠隔転移炎症性乳癌とその他の進行癌と糖尿病,脂質異常症との関わりは同程度であった.

【影響】
これらの異常が確認された場合,予防へのきっかけとなりうる.

2017年1月14日土曜日

DNAのメチル化が12種類の腫瘍関連microRNAの過剰発現と腫瘍の進展に寄与する

Pronina IV, Loginov VI, Burdennyy AM, et al. DNA methylation contributes to deregulation of 12 cancer-associated microRNAs and breast cancer progression. Gene. 2017;604:1-8.

PMID: 27998789

悪性腫瘍細胞内で遺伝子とパスウェイを過剰発現させる重要なものとして,「プロモーター領域のCpG配列のメチル化」および「microRNA(miRNA)と標的遺伝子のmRNAの相互作用」と言う2つの機序が知られている.
この研究の目的は,乳癌と関わりのある13種類のmiRNA(miR-124, -125b, -127, -132, -137, -148a, -191, -193a, -203, -212, -34b, -375, -9)の発現を変えるプロモーターのメチル化について解析することである.
これらのmiRNAの過剰発現に対するメチル化の役割は,これまでの乳癌の代表的セット内において調査されて来なかった.
我々は58組(腫瘍・正常)の乳腺組織検体を使い,9種類のmiRNA遺伝子のメチル化パターンにおける重要な変異を調べるためメチル化特異的PCRを行った.
特に,我々はMIR-127, -132, -193aの高メチル化とMIR-191の低メチル化を初めて観察した.
我々は定量PCRを用いて,プロモーターのメチル化と12種類のmiRNA(MIR-212を除く全て)の発現量の強い相関を導き出した.この発見はメチル化パターン変化の機能的重要性を示している.
また,我々は13種類のmiRNAと,それらの標的と考えられている5種類の腫瘍関連遺伝子(RASSF1(A), CHL1, APAF1, DAPK1, BCL2)の相関解析を行い,乳癌細胞の機能におけるこれらのmiRNAのmRNAに対する影響を調べた.
以下の3種類のmiRNAとmRNAの組み合わせにおいて,有意な負の相関を認めた.すなわち,
・miR-127-5p と DAPK1
・miR-375 と RASSF1(A)
・miR-124-3p と BCL2
である.
さらに,我々はMIR-127およびMIR-125b-1の高メチル化と乳癌の進展(特に転移)との強い相関を発見した.
以上より,我々の発見は乳癌における12種類のmiRNA遺伝子の過剰発現に対してメチル化が持つ重要な役割,機能的miRNA-mRNAの新しい組み合わせの可能性,またMIR-127とMIR-125b-1の高メチル化が乳癌転移のバイオマーカーとして有用である可能性を示した.

2017年1月13日金曜日

血清メタボロミクス的特徴による乳癌の発見

Jové M, Collado R, Quiles JL, et al. A plasma metabolomic signature discloses human breast cancer. Oncotarget. 2017;

PMID: 28076849

【目的】
「メタボロミクス」とは生物学的試料内の代謝産物に対する包括的な研究の事である.
我々はこのパイロット研究において,血清代謝産物分析によってサブタイプに関わらず乳癌の存在を識別出来るか後ろ向きに検討した.

【方法】
健康な女性20名と乳癌と診断された患者91名の血清試料を用いて,液体クロマトグラフィー質量分析を行った.
乳癌診断のメタボロミクスパネルを生成するために,多変量解析とランダムフォレストによる分類を行った.

【結果】
メタボロミクスによって乳癌患者と健康な人々を正しく区別することが出来た.
乳癌患者と健康な人々を比較したランダムフォレストによるクラス予測解析によって,100%正しく分類することが出来た.
そのため,in-of-bagエラーとout-of-bagエラーに対するクラスエラーはともに0であった.
また,我々は健康な人々と乳癌患者の血清中に異なる濃度を持つ1269個の代謝産物を発見し,計算精密質量,保持時間,同位体分析により,35個の代謝産物を同定した.
これらの代謝産物は,必須生体分子の合成に必要なエネルギーと資材を供給することで,細胞発育を支持している.
ランダムフォレスト,優位性検定,偽発見率(false discovery rate)解析をまとめることで,いくつかの代謝産物が乳癌と強く関わっていることが分かった.

【結論】
乳癌はそのサブタイプに関わらずメタボロミクス的特徴を持ち,またそれは患者血清中に検出することが出来る.


2017年1月12日木曜日

乳癌患者における条件付き無病生存率(CDFS)

Paik HJ, Lee SK, Ryu JM, et al. Conditional disease-free survival among patients with breast cancer. Medicine (Baltimore). 2017;96(1):e5746.

PMID: 28072715

【背景】
条件付き無病生存率(CDFS; conditional disease-free survival)では時間経過による変化を反映することができる.
これまで用いられてきた無病生存率(DFS)は診断時点からの生存率を計測していたため,無病状態で経過している患者の再発リスクを予測する点で課題があった.
本研究において,我々は乳癌患者のCDFSを明らかにし,DFSにおける予後予測因子を推定した.

【方法】
Samsung Medical Centerにおいて2004年1月から2013年12月までに乳癌根治手術を施行された連続した患者7,587人を後ろ向きに解析した.
DFSにおけるリスク因子を明らかにするため,Kaplan-Meier法により単変数解析と多変数解析を行った.
CDFSは累積DFS予測に基いて計算された.

【結果】
フォロー期間の中央値は20.59ヶ月であった.
解析前の3年DFSは93.46%であった.
術後1年目〜5年目における無病患者の3年CDFSは各年92.84%,92.37%,93.03%,89.41%,79.64%であった.
3年CDFSはホルモン受容体陰性患者では毎年上昇したが,ホルモン受容体陽性患者では毎年低下した.

【結論】
現行のガイドラインでは推奨されていないものの,3年目で無病状態のホルモン受容体陽性患者は,継続的なサーベイランスと転移の評価を行うべきである.
一方,ホルモン受容体陰性患者ではサーベイランス期間を延長することで社会的コストを抑制することが出来る可能性がある.
乳癌患者におけるDFSの予後予測因子を同定するために今後の研究が期待される.

【用語解説】
条件付き無病生存率CDFS:患者が診断後X年無病生存した時点におけるY年生存率を指す(Henson DE, Ries LA. On the estimation of survival. Semin Surg Oncol
1994;10:2–6.).

2017年1月11日水曜日

T4乳癌に対する現代の外科的療法

Murphy BL, Hoskin TL, Boughey JC, et al. Contemporary operative management of T4 breast cancer. Surgery. 2016;160(4):1059-69.

PMID: 27521042

【背景】
T4乳癌に対して,ガイドラインでは術前化学療法後の修正根治的乳房切除術が推奨されている.
我々はより低侵襲の外科的療法を選択出来る患者群を同定するために,現在の全身化学療法と腫瘍のサブタイプが病理学的病期分類と診療様式に与える影響を研究した.

【方法】
我々の施設(Mayo Clinic)において2008年10月から2015年7月までに手術を受けた98人の臨床的T4M0の患者について調べた.
患者,腫瘍,そして治療変数(treatment variable)を解析した.

【結果】
臨床的T4のうちサブステージとしては,7%がT4a,32%がT4b,3%がT4c,58%がT4dであった.
腫瘍の生物学的サブタイプとしては,41%がER陽性HER2陰性,36%がHER2陽性,23%がER陰性HER2陰性であった.
86人(88%)の患者が術前化学療法を受けた.87%が乳房全摘術,9%が皮膚温存乳房切除術,4%が乳房温存術を受けた.
74%の患者に腋窩郭清を施行され,センチネルリンパ節生検の結果,腋窩郭清を14%が受け,11%が受けなかった.
41人(42%)がリンパ節転移陰性だった.
乳腺(31%)と腋窩(39%,臨床的リンパ節転移陽性例)における病理学的完全寛解率は生物学的サブタイプと相関していた(P <.0001).
5年無病生存率,5年乳癌特異的生存率はそれぞれ68%,86%だった.

【結論】
ガイドラインに従った治療は乳腺手術,腋窩手術の双方において十分な治療成績を示した.
良好な乳癌特異的生存成績は現代の集学的治療が治療成績を改善している事を示唆している.
注意深い病理学的検査と治療反応性の検討により乳房温存または腋窩温存手術が適切な臨床的T4患者を同定出来る可能性がある.

2017年1月10日火曜日

FALCON試験〜ホルモン受容体陽性進行乳癌に対するフルベストラントとアナストロゾールの多施設ランダム化比較試験〜

Robertson JF, Bondarenko IM, Trishkina E, et al. Fulvestrant 500 mg versus anastrozole 1 mg for hormone receptor-positive advanced breast cancer (FALCON): an international, randomised, double-blind, phase 3 trial. Lancet. 2017;388(10063):2997-3005.

PMID: 27908454

【背景】
ホルモン受容体陽性の進行乳癌や転移性乳癌に対して,アロマターゼ阻害薬は標準治療として用いられている.
ホルモン療法を受けていない閉経後の乳がん患者に対して,我々はフルベストラント(SERD; Selective Estrogen Receptor Degrager)が無増悪生存期間を改善させるか検討した.

【方法】
この第III相ランダム化比較試験(二重盲検法)において,組織学的にエストロゲン受容体陽性,プロゲステロン受容体陽性,あるいはその両者,と診断された局所進行あるいは転移性乳癌の患者を20ヶ国113施設(大学病院,市中医療センター)から集めた.
研究に参加した被験者はホルモン療法未加療,WHO基準でPS 0-2,少なくとも1つの病変を持つ(測定可能でも不可能でも)の条件を満たした.
患者はコンピュータ生成ランダム化装置により,フルベストラント群(500 mg 筋注をday 0, day 14, day 28, その後28日ごと)とアナストロゾール群(1 mg経口を毎日)に1:1でランダムに割り付けられた.
Primary end point は①「固形がんの治療効果判定のための新ガイドライン(RECISTガイドライン)1.1版」で定められた無増悪生存期間,②病勢悪化に対する手術または放射線療法による治療,③全死因死亡とし,ITT解析を行った.
安全性の評価は全患者に対してランダム化治療を1回受けた後に行った(プラセボ含む).
本試験はClinicalTrials.govに登録されている(登録番号NCT01602380).

【結果】
2012年10月17日から2014年7月11日まで,524人の患者が本試験に登録された.
そのうち,462人の患者がランダムに割り付けられた(フルベストラント群230人,アナストロゾール群232人).
無増悪生存期間はフルベストラント群で有意に長かった(HR 0.797,95%信頼区間 0.637-0.999,p=0.0486).
無増悪生存期間の中央値はフルベストラント群で16.6ヶ月(13.83-20.99ヶ月),アナストロゾール群で13.8ヶ月(11.99-16.59ヶ月)だった.
最もよく見られた有害事象は関節痛(フルベストラント群で38人(17%),アナストロゾール群で24人(10%))と顔面紅潮(フルベストラント群で26人(11%),アナストロゾール群で24人(10%))だった.
フルベストラント群のうち228人中16人(7%)とアナストロゾール群232人中11人(5%)が有害事象のため治療を中止した.

【結論】
ホルモン受容体陽性の局所進行あるいは転移性乳癌患者への初期治療として,現在の標準治療である第三世代アロマターゼ阻害薬に比してフルベストラントは優位な効果を示し,望ましい治療選択と言える.

【用語解説】
フルベストラント:選択的エストロゲン受容体抑制薬(SERD)